イベント参加報告
2016年学会・研究会・セミナー参加報告
RSNA2016参加報告
2016年11月27日(日)から12月2日(金)までアメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市のマコーミックプレイスにて第102回北米放射線学会(Radiology Society of North America: RSNA)が開催され、研究発表の形で参加をしたので報告を行う。
RSNAは、皆さんご存知のように、世界最大の放射線医学の国際学会である。医師や技師、その他の研究者が一同に集まって、ディスカッションなどを行う一大イベントである。会期中の参加人数が約6万人というので、そのスケールの大きさには驚きである!(日本の毎年4月開催されるJRCは3学会合計で約1万2000人) 学会期間中には、街路樹にRSNAへの参加を歓迎する垂れ幕が取り付けられていたり、市内のホテルと会場の間には、15分〜30分おきにシャトルバスが往復して運行されていたりして、街全体が学会への参加を歓迎しているようであった。またシカゴの中心部もthanksgiving day(感謝祭)が終わり、クリスマスが近づくにつれて、イルミネーションが点灯されたり、ベルの音が鳴り響いたりしていて、とても雰囲気のある街並みの中で、毎日を過ごさせてもらった。
今回、私はeducation exhibitのneuroradiologyのセッションにおいて「How Much Radiation is a Patient Exposed to in Cone Beam CT for Interventional Neuroradiology?」というタイトルで研究発表を行った。研究発表の内容は、血管撮影装置を用いて撮影するコーンビームCTの被ばく線量、特に水晶体線量に着目し、ファントムによる実測と臨床の脳血管内治療の中で、コーンビームCTによる撮影がどの程度寄与しているか評価を行ったものである。
私自身、今回のRSNAが初めての国際学会での発表であり、演題の採択が決まってから、飛行機・ホテルの手配、学会への参加登録、約1か月前の発表内容のデジタルデータの提出(恐らく賞の選定に使用すると思われる)、そして本番の紙ポスターの作成と、右も左も分からないまま、慌ただしく準備を進めていった。日々迫り来るRSNAでの発表への不安で眠れない日々を過ごし、もっと早くから準備を始めておけば…、と強く反省をした次第である。
簡単にRSNAの発表の形式をまとめると、講演は特別講演や教育講演、研究発表は、scientific presentationとeducation exhibitに分類される。scientific presentationは、通常の研究発表と言うべき形式で口述発表とディジタルポスターを用いて行う発表に分類される。そして、education exhibitは、教育展示と言うべき内容で、こちらはディジタルポスターによる展示と紙ポスターによる展示に分類される。
このeducation exhibitで発表する内容は、全て新しい研究成果を示す必要がなく、“教育”という要素を含むため、既知の知見を含んでも良いことになる。今回の私の発表は、education exhibitの紙ポスターを用いて行ったが、前半の部分は「コーンビームCTとは何か?」「コーンビームCTの臨床的メリット/デメリットは何か?」「水晶体線量限度の引き下げについて」といったこともポスターに掲載した。
当初私は、「なぜこの時代に紙ポスターの発表が必要なのか?、全てディジタルポスターで良いのではないか?」という疑問を持っていたが、実際にRSNA へ参加してみると、それぞれに良い点があることが分かった。まずディジタルポスターに関しては、すでに日本のJRCでもCyposとして採用されているので、ご存知であると思うが、会場内であれば自分のPCからもアクセス可能であり、時間や場所を機にすることなく、ゆっくりと閲覧することができるが、自分からアクセスをしないと見ることができないという欠点がある。対して、紙ポスターは、実際にポスター会場に足を運ばなければ閲覧することができないが、色々な人にポスターを見てもらうことが可能であり、ふらっと立ち寄った人にも興味を持ってもらえる可能性がある。そして興味を持ってもらえた人に対しては、1対1で顔を合わせながら質問やコメントをもらうことができる。
実際に私は、学会期間中のお昼の時間に、ポスターの前に立っていて、ポスターを見に来た人と直接話をするチャンスを得ることができた。そして、ポスターの前にはA3形式のハンドアウトを置いて、発表に興味を持った人が自由に持ち帰ってもらえるようにした。日本のみならず海外の方からも興味を持ってもらうことは、この上ない喜びであり、今回のRSNAでの大きな収穫の1つであったと思う。
RSNAでは、研究発表の他に日本のITEMに相当する機器展示も行われていた。ITEMであっても毎年スケールの大きさにびっくりするのだが、RSNAでの機器展示は、私の想像を遥かに超えるものであった。当然、短い時間で全てを回ることは不可能であり、自分の興味のあるモダリティ、メーカーに的を絞って足繁く色々な装置を見て回った(それでも何回かに分けて足を運んだが…)。
CTに関しては、目を見張るような新しいリリースはなかったが、やはり各社逐次近似(応用)画像再構成、dual energy、低管電圧撮影などをキーテクノロジーとして、被ばく線量や造影剤量の低減に力を入れているようであった。研究発表でもそのような演題が多く見られ、今のCTの大きなトレンドであると実感した。
東芝のブースにも当然足を運んだが、すでに日本でもリリースされているAquilion ONEのGENESIS Editionが前面に展示され、改めて装置のコンパクトさや操作性の向上などを体感してきた。
ここで一つRSNAでのCTのトピックを紹介する。scientific presentationで、フォトンカウンティングCTに関する発表がいくつかなされていた。発表サイトはNIH(アメリカ国立衛生研究所)など、世界的な研究施設であるが、すでに実用機に近いものが製作され、ファントム実験や動物実験、一部人体に対して撮影されたものがデータとして示されていた。このフォトンカウンティングCTにより、現在のdual energy CTと比べ、さらに詳細な物質弁別が可能となり、 現在使用されているヨード造影剤に加えて、MRIで用いられているガドリニウム造影剤、さらに経口のビスマス製剤を加えることにより、1度の撮影で血流動態や排泄動態など様々な情報を得ることができ、被ばく線量、造影量の低減につながると発表されていた。このフォトンカウンティングCTに関しては、1つのセッションが設けられ、会場には座りきることができないほどの人が集まっており、世界中からの興味の高さをうかがい知れた。フォトンカウンティングCTは、数年前までは実用化は夢のまた夢のCTと思っていたが、今回の発表を聞いて、日本でもそう遠くない未来に我々が操作して、さらに今のMDCTのように当たり前のように使う日が来るのではないかと実感した次第である。
学会での大きな楽しみの一つは、知識の習得と共にプラスアルファの自分へのご褒美である。期間中、空き時間があるときには、ふらっと市街地へ足を伸ばして、観光もさせてもらった。シカゴの街にはビルが立ち並んでおり、地上100階建てのジョン・ハンコック・センターや今話題のトランプタワーを眺めたり、実際に登ってみたりもした。また夜はメーカーが主催するセミナーにも参加して、そこでは多くの日本人の方と知り合うこともできた。CTに限らず様々な研究を行っている方、学会場では怖そうな顔をして近寄り難かった大御所の方とも知り合うことができて(実は非常に気さくで優しい方でした)、非常にプライスレスな体験をすることができた。
以上、長々と書き連ねてしまったが、私のこの報告が来年以降RSNAを目指す人の役に立てば幸いである。よく言われることであるが、基礎と臨床を知る日本の放射線技師の能力は非常に高く、決して世界に引けを取っていないと感じた。私のような英語力の低い者でも、何とか発表を務めることができたのだから、皆さんも果敢にチャレンジしていただければと思う。
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 川内 覚